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アキレス腱炎、付着部炎とは
今回はアキレス腱の解剖、病態、また痛みが出た際の治療について解説します。私が今回この疾患を取り上げようと思ったのは、この痛みで来院される患者様が非常に多いと感じたからです。この疾患の厄介なところは、初期の症状では普段と変わらず運動ができてしまうことです。例えば、トレーニング後に少し痛みがある程度であったり、アップ時に少し痛みがあるが、その後、痛みを感じることなくプレーでききることなどが挙げられます。しかし、その症状が長く続くと次第にプレー中にも痛みが出現してきます。
- 全力で走ることが出来ない
- ジャンプ着地が出来ない
- 練習後も痛みが継続している
- 自宅に帰っても熱感がある
- アキレス腱が腫れている
- 起床後に痛みがある
- 足関節底背屈(上下運動)時の軋轢音(雑音)
- punp bump (下記図)
このような段階での受診が非常に多いように感じます。後述しますが、初期の段階(アップ時のみの痛み)であれば、炎症のみの場合が多いため、治療期間は短く、アキレス腱の変性はみられないことが多いです。可能であれば、上記の7項目に当てはまる前に、受診することを強くおすすめします。
アキレス腱の障害は、アスリートだけではなく、一般ランナーや健康志向の高い中高年アスリートに至るまで幅広い年齢層にみられ、使い過ぎ(ovre use)症候群として難治性の病態へと移行することも珍しくありません。これが致命的な弱点となり競技を諦めざるを得ない状況へと追い込まれる選手が意外と多いのです。
近年、アキレス腱炎、アキレス腱付着部炎という名称はほとんど使われなくなってきました。その理由として、腱や腱付着部の微小損傷が繰り返されることによる修復不全の状態、つまり変性が基盤となっていることが分かったからです。これは炎症が何度も繰り返されることによって、アキレス腱自体が変化したことを意味します。アキレス腱の痛みで来院される方は既に変性していることが多かったために、腱炎、付着部炎の名称が使われなくなったと考えられます。
スポーツ医学会はもう少し細かく分類した方が分かりやすいのではないかということで、最近では解剖学的部位により2つに分類しています。
- アキレス腱症(アキレス腱実質にみられる障害)皆さんが思い浮かべるアキレス腱
- アキレス腱付着部症(アキレス腱付着部近傍にみられる障害、踵骨後部滑液包炎を含む)ほぼ踵の辺り
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アキレス腱とは
アキレス腱とは人間の最も大きい腱です。腓腹筋の内側頭、外側頭、そしてヒラメ筋の腱から成り立っています。これらは総称して下腿三頭筋(ふくらはぎの筋肉)と呼ばれています。この3つの筋肉が踵付近で融合して、アキレス腱を形成しています。文献によって差はありますが、歩行時には体重の約4倍、走行時には12.5倍の負荷が加わっています。
アキレス腱に影響を与える組織として、パラテノンがあります。このパラテノンは血管と神経が豊富に存在しています。アキレス腱は他の腱とは異なり腱鞘(アキレス腱以外の腱は腱鞘によってしっかり滑走できるように押さえられています)は存在しません。アキレス腱はパラテノンに走行する血管から栄養を受けています。また、このパラテノンが2~3㎝伸長することでアキレス腱の滑走をスムーズに行うことができます。したがって、パラテノンの伸張性がアキレス腱の滑走性や栄養にも影響を与えます。血液供給は踵骨付着部から近位(踵から頭に向かって)2~6㎝は血液の供給が乏しいと言われています。
アキレス腱症の好発部位と発症要因
アキレス腱症の好発部位は踵骨付着部から近位(踵から頭に向かって)2~6㎝です。そして、外側(外くるぶし側)よりも内側(内くるぶし)に多く発症します。その要因としては、前述している通り、近位2~6㎝は血液供給が乏しいことと、アキレス腱の横断面積(一番細くなっているところ)が小さいことが挙げられます。また、ランニング時は後足部の外反が大きいことから足部過回内(内側縦アーチの減少、土踏まずがあまりない。つまり偏平足)により、アキレス腱の中央部の血流がさらに乏しくなることが発生要因として可能性が高いと言われています。外反母趾も偏平足の発生要因にもなることから、こういった選手もアキレス腱症の発生確率は高くなると考えてよいでしょう。
アキレス腱付着部症の発症要因
腱付着部は骨組織と腱組織という異なる組織同士が接する場所で、ストレスが集中しやすい場所です。また、踵を観察すると内側と外側のアキレス腱の付着部は同部位でないことが分かります。内側は少し短く、外側は少し長くなっているはずです。おそらく、回内(土踏まずの隙間が少なくなる動き)に対応した形になっていると考えられます。アキレス腱は前に進むためにある程度伸張されなければ、強い推進力を生むことができず、強大な力を出すことができません。内側のアキレス腱付着部が外側の付着部と同じところに付いてしまうと、伸び縮みの伸びの部分が弱くなります。しかし、繰り返し伸張ストレス(伸び)を与えてしまうと炎症が起きます。また、アキレス腱の踵への付着部付近は血液流入が少ないため損傷回復能力が低く、これが発症要因となっています。
成長・加齢からみるアキレス腱
アキレス腱は成長や加齢、性差または競技により形態的(形、大きさ、伸張性、強度)な個人差が存在します。それはストレッチや運動によっても変化します。
まずはスティフネスからみていきましょう。スティフネスとは日本語では剛性という意味です。伸張、曲げや捻じれに対する抵抗力のことです。つまりある力に対して変形しづらい。アキレス腱のスティフネスとは一般に伸張に対する抵抗力です。力に対して変化が小さいときはスティフネスが高い(剛性)、変化が大きいときはスティフネスが低い(柔軟)ということになります。
スティフネスには性差(女性<男性)があり、それは一般的な関節可動性の性差(女性>男性)となって現れます。また、競技での差も明らかになっています。短距離選手のアキレス腱のスティフネスは長距離選手や一般健常者よりも高いことが分かっています。つまり、短距離選手はアキレス腱が硬い選手が多いということです。これは、頻繁に腱に課せられる大きなストレスに対応するためです。短距離選手のアキレス腱の横断面積(アキレス腱を地面に対して平行に切ったときの面積)は走速度と相関関係があるという研究結果が多く、高強度のトレーニングを通じた横断面積の増加と、そのことによる高いスティフネスの達成が考えられます。一方、中・長距離選手も横断面積は増加しています。これは長時間のランニングで炎症や微細損傷を繰り返すことにより腱が肥大化し、横断面積が増加していると考えられます。
成長過程におけるアキレス腱の変化についても研究されています。身長増加の思春期ピークを前後にアキレス腱のスティフネスの増加が確認されており、これは成長によってアキレス腱が硬くなることを示しています。
以上の事から推察すると…(文献によってもかなりばらつきがある…)
- アキレス腱症の発症率には性差はないが、アキレス腱付着部に関しては男性に多い。
アキレス腱断裂は圧倒的に男性に多い。約3.5倍といわれている。これはスティフネスは女性の方が低く、関節可動性は女性の方が高いからである。もちろん、筋肉の力も影響しているが、パワーの影響が大きい。※力×速さ=パワー
パワーが大きい程、踵との付着部のストレスが増加する。 - 陸上競技における短距離走者と長距離走者で比較すると、アキレス腱障害は長距離走者に多い。横断面積の増加は両者にみられるが、前者は競技特性における正の生理学的変化、後者は負の生理学的変化と捉えることができる。つまり、短距離走者は速く走るための変化で、長距離走者は炎症による変化である。ただし、アキレス腱断裂は短距離走者に多い。
- アキレス腱断裂はバレーボール、バスケットボールなど、爆発的な筋力発揮を要するスポーツに多いが、アキレス腱障害は競技別の発症率に差は感じられない。これは、アキレス腱障害の発生には身体の使い方や、アライメントが影響している可能性が高い。※アライメントとは骨が最適な位置にあるかを表す言葉。静的アライメントと動的アライメントがあり、スポーツ障害では後者が重要視される。
一言でいえば、アキレス腱障害はオーバーユース障害
当院での治療
アキレス腱障害に対する第一選択は保存療法(手術ではない)であり、運動療法と徒手療法を組み合わせて治療を行います。整骨院 sports college では以下の2点をメインに治療します。
- アキレス腱に対するストレスの軽減
- アキレス腱の剛性の向上
まず、初めに運動療法について説明します。当院では、来院時にご自宅でできる運動を指導しています。少し前までは遠心性(エキセントリック)トレーニングのみが推奨されていましたが、現在は遠心性トレーニングと強い負荷や遅い速度のトレーニングなど、腱へ適切な負荷を加える包括的なエクササイズが推奨されています。急性期以外のアキレス腱障害は、完全な休養を取らずに疼痛自制内での運動で改善を図ります。運動療法は腱への負荷プログラムだけではなく、歩行、ランニング、ジャンプ時のアライメントの改善も含まれます。アキレス腱障害は静的アライメントよりも、動的アライメントが重要で、歩行時には足関節の回内が許容範囲内であってもランニング、ジャンプ時には過回内になっている場合にはその改善が必要になります。これがアキレス腱に対するストレスの軽減に繋がります。一方でこのようなアライメントの改善を促す運動療法は、障害されている部分の治癒にはほとんど影響がありません。部分的に変性したアキレス腱の修復は治癒が遅いからです。そこで、腱の剛性の向上です。正常部の横断面積を増加させることで変性した障害部を代償(補ってあげようという事)させるのです。アキレス腱の治癒過程の応じた障害部の治癒促進よりも、腱の正常部を強化する方が効率的です。アキレス腱の剛性の向上とは腱自体の負荷耐用能力向上という意味です。ただし、誤った負荷の増加は疼痛や炎症を助長させる危険性があるので、患部の状態を注意深く観察しながら漸進的に増加する必要があります。負荷設定は非常に難しいので整骨院 sports college にお任せください。
基本的には、等尺性(アイソメトリック、静止性)トレーニング➡求心性(コンセントリック)トレーニング➡遠心性(エキセントリック)トレーニングでトレーニングを進めていきます。また、腱へのストレスは運動速度に依存すること、腱への負荷耐容能の向上は収縮形態(速度)よりも負荷の大きさに関連することを考慮すると、トレーニングは速度よりも重量の増加を優先的に行うべきです。負荷トレーニングをクリアした段階で、バウンシングや片足ジャンプなど、競技特性に応じた速度トレーニングを組み入れます。
徒手療法は運動療法よりも効果が低いとされていますが、保存療法、観血療法共に、必須の治療になります。具体的には、可動域改善を目的とした足関節(距腿関節)、ショパール関節、リスフラン関節の可動性、足趾の動きの改善、アキレス腱とその周囲組織の粘弾性の除去です。ストレッチングも重要です。膝屈曲位、伸展位(膝が曲がった状態と伸びた状態)どちらも行ってください。膝屈曲位では、ヒラメ筋が伸張され、伸展位では腓腹筋が伸張されるからです。当院では徒手療法と運動療法で治療を行います。以下に治療プランを時系列にまとめました。
- 徒手療法により下腿三頭筋やアキレス腱の伸張性と滑走性を改善
- 静的アライメントの獲得
- 動的アライメントの獲得
- アキレス腱の剛性の獲得
- 競技特性に応じた運動速度でのトレーニング
インソールに関しては、スポーツ医学会では積極的な使用は推奨されていませんが、私は痛みの軽減には効果を発揮すると思います。ただ、インソールは強制的にアライメントの保持をする目的で作成されるので、根本的な改善には繋がりません。このような理由からスポーツ医学会も推奨していないのではないかと思います。インソールを希望されるのであれば、技師装具士が在籍している整形外科で作ることをお勧めします。市販のインソールはオーダーメイドではないので、アライメントを崩してしまう恐れがあり、新たな痛みを誘発する可能性があるからです。
急性期のアキレス腱障害に関しては炎症を抑制する医療器とアイシングを併用して、一週間程度安静が最も良い判断です。しかし、試合前など安静にできない事情はあると思いますので、その場合は症状に合った適切なテーピングをして試合に臨むのが良いでしょう。アキレス腱障害を有している選手は足底腱膜炎を合併していることが多いです。これは下腿三頭筋の柔軟性の欠如から、アキレス腱の牽引力により踵骨が引き上げられ、足底腱膜の牽引を引き起こすからです。このようなケースではしばしば内側縦アーチの減少が見られ、テーピングにより、内側縦アーチのサポートテープが必須となります。
整形外科での治療
- 対外衝撃波療法
超音波とは異なり、熱を発生させないために出力を強くすることができる。組織修復効果と除痛効果がある。除痛効果は比較的早期に得られる。 - PRP(多血小板血漿)療法
難治性の疼痛を持つ選手に対して施行されることが多い。劇的に症状が改善される例も報告されているが、無効例の報告も多い。アキレス腱障害に対するPRP療法のエビデンスは残念ながら低い。しかし、日本だけに絞ってみれば、治療後に改善が得られたとする報告が多い。 - 超音波ガイド下治療
再生医療新法に基づく申請、認可が必要なPRP療法や日本国内では未承認の機械を扱う治療は、簡単に受けられるものではなく、その病院を探すことが難しい。しかし、この治療はどの病院でも施行してくれることが多い。エコー、使用薬剤、チューブ、注射針があれば施行することができる。ただし、超音波による正確な障害位置の診断が必要となる。 - 手術療法
切除術、剥離術、踵骨形成術、再建術
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